転職した年の医療費控除のやり方|セルフメディケーション税制との違いと申告の流れ
転職した年でも医療費控除は受けられる?

受けられます。医療費控除は、自分や、生計を一にする配偶者・親族のために、その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費が一定額を超えたときに受けられる所得控除です[1]。勤め先が変わったかどうかは関係ありません。
転職の年は、次のように期間が分かれることがあります。どの期間に払った医療費も、支払った年の分として合わせて計算します。
- 前の職場にいた期間 — 前の職場の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)で受診
- 空白期間 — 国民健康保険、任意継続、家族の扶養などで受診
- 転職先に入ってから — 転職先の健康保険で受診
注意したいのは「支払った日」で数えることです。12月に受診して翌年1月に支払った医療費は、支払った年の分になります。未払いの医療費は、実際に支払った年の対象です[1]。
医療費控除は勤務先の年末調整でできる?
できません。年末調整を受けた人でも、医療費控除は確定申告をして受けます。国税庁は、医療費控除などを受ける給与所得者を還付申告の対象の例に挙げ、年末調整を受けた人が医療費控除を受ける場合の確定申告書の記載例も示しています[2][3]。
転職の年は、確定申告の要否そのものが「前の職場の源泉徴収票を転職先に出したか」で変わります。転職先の年末調整に前の職場の分を合算してもらえたか、自分で確定申告が必要か、の判断は転職した年の年末調整と確定申告にまとめています。どちらの場合でも、医療費控除を受けたいなら確定申告をする、という点は同じです。
源泉徴収票が2枚あるときは?
- 転職先で合算してもらった — 転職先の源泉徴収票に前の職場の給与も入っています。確定申告ではこの1枚の内容を使います
- 合算されていない — 前の職場と転職先の2枚分の給与を、どちらも申告書に記入します
源泉徴収票は確定申告書に添付する必要はありませんが、申告書を作るときに必要なので手元に用意します[1]。
医療費控除の対象と計算方法は?
控除額は次の式で計算します。上限は200万円です[1]。
- 控除額 =(実際に支払った医療費の合計)−(保険金などで補てんされる金額)−(10万円)
- 10万円の部分 — その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額になります
- 補てんされる金額の例 — 生命保険契約などで支給される入院費給付金、健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金。補てん金は、その給付の対象になった医療費から差し引き、余っても他の医療費からは引きません
対象になるのは、医師・歯科医師の診療や治療の費用、治療に必要な医薬品の購入費、通院の交通費(電車・バスが使えない場合のタクシー代など)、出産の費用などです。健康診断・人間ドックの費用(結果、治療が必要になった場合を除く)、美容目的の費用、治療に直接必要でない眼鏡やコンタクトレンズ、予防接種の費用などは対象になりません[4]。
計算の見本
以下は計算の仕組みを示すための見本です。実際の金額は、ご自身の領収書と源泉徴収票で計算してください。
| 項目 | 見本の金額 |
|---|---|
| 1年間に支払った医療費(本人と家族の合計) | 180,000円 |
| 生命保険から受け取った入院費給付金(補てん) | 30,000円 |
| 総所得金額等が200万円以上の場合に差し引く額 | 100,000円 |
| 医療費控除額 | 50,000円 |
同じ医療費でも、総所得金額等が150万円の人なら差し引く額は7.5万円(150万円の5%)になり、控除額は7.5万円です。年の途中で退職して働かない期間が長かった年などは、この5%の決まりに当たることがあります。なお、還付されるのは控除額そのものではなく、控除によって減る所得税の分です。
セルフメディケーション税制とはどちらを選ぶ?
セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例です。健康の保持増進や病気の予防の取り組みをしている人が、対象の市販薬(スイッチOTC医薬品など)を買ったときに使えます[5]。
- 控除額 — 対象医薬品の購入費(補てん分を除く)の合計から12,000円を引いた額。上限は88,000円です
- 必要な取り組み — 申告する本人が、その年に次のどれかを受けていること。勤務先の定期健康診断(事業主健診)、保険者が行う健康診査(人間ドックなど)、特定健康診査、予防接種(定期接種、インフルエンザワクチンなど)、市区町村のがん検診など。家族が取り組みをしている必要はありません
- 対象の薬の見分け方 — 対象商品は領収書にその旨が表示されます。共通の識別マークがパッケージに付いている商品もあります。品目は厚生労働省の対象品目一覧で確認できます[6]
- どちらか一方だけ — 通常の医療費控除と同時には使えません。いったん選ぶと、更正の請求や修正申告で選び直すこともできません
医療職は、勤務先の健康診断やインフルエンザワクチンの接種を受けることが多く、取り組みの要件に当たりやすい立場です。転職の年は、前の職場で受けた健康診断でも、転職先で受けた予防接種でもかまいません。取り組みを示す書類(結果通知表や領収書など)は、提出は不要ですが、確定申告期限等から5年間は提示を求められることがあるので保管しておきます[5]。
セルフメディケーション税制は、現在は2026年12月31日までに支払った分が対象とされてきました[7]。令和8年度の税制改正で延長・見直しがあり、改正後の規定は2027年1月1日に施行されると厚生労働省が案内しています[6]。2027年以降に買う薬の対象範囲は、厚生労働省の対象品目一覧と国税庁の案内で確かめてください。
どちらが有利かは、その年の医療費と市販薬の額で決まります。病院・歯科の支払いが多い年は通常の医療費控除、受診は少なく市販薬が中心の年はセルフメディケーション税制が向くことがありますが、確定申告書等作成コーナーで両方を入力して比べるのが確実です。
転職で健康保険が変わった年の領収書はどうする?
医療費控除は、領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作って申告書に添付します。医療保険者が発行する医療費通知(医療費のお知らせ)があれば、それを添付して明細書の記入を簡単にできます[1]。転職の年は、この医療費通知が加入していた健康保険ごとに分かれる点に注意が必要です。
- 領収書は1年分を1か所に — 前の職場の保険の期間、空白期間、転職先の保険の期間の領収書を、まとめて保管します。医療費通知を添付しない分の領収書は、確定申告期限等から5年間、提示や提出を求められることがあります[1]
- 紙の医療費通知が届かないことがある — たとえば協会けんぽは、事業所あての「医療費のお知らせ」の一斉送付を令和7年度(令和8年1月送付分)で終え、マイナポータルでの確認を案内しています[8]。健康保険組合や国民健康保険の扱いは、それぞれの加入先で確認します
- マイナポータル連携 — 確定申告に使う1年分(1月〜12月分)の医療費通知情報は、例年、原則2月9日から一括で取得できます[9]。ただし、原則として保険診療分の情報で、はり・きゅう、柔道整復などは含まれない場合があります。ドラッグストアで買った薬も含まれません[10]
- 全期間がそろっているか確かめる — 保険が変わった年は、取り込んだデータに前の保険の期間・空白期間・転職先の期間がすべて入っているかを、領収書と照らし合わせます。足りない月は領収書から入力します
- 高額療養費の支給は補てんに入る — 退職後に前の健康保険から高額療養費が支給された場合も、その分は差し引いて計算します[1]
家族の医療費もまとめる場合は、マイナポータルで代理人を設定すると、家族の医療費通知情報も申告に取り込めます(申告者と家族のマイナンバーカードが必要)[10]。同じ医療費を家族の2人が重ねて申告しないよう注意します。
医療費控除のやり方は?申告の流れ

- 書類をそろえる — 源泉徴収票(2枚ある人は2枚とも)、医療費の領収書、保険金などの支給額が分かる書類、マイナンバーカード
- 医療費を集計する — 領収書が多い人は、国税庁の「医療費集計フォーム」(表計算ソフトのひな形)で入力しておくと、作成コーナーに読み込めます。セルフメディケーション税制を選ぶ場合は使えません[10]
- 申告書を作る — 国税庁の確定申告書等作成コーナーで入力すると、明細書も自動で作られます[1]。マイナポータル連携を使う場合は、事前に連携の設定をしておきます
- 提出する — e-Tax(スマートフォンやパソコン)で送信するか、印刷して住所地を所轄する税務署に提出します
入力で迷ったときは、税務署に電話して音声案内で「1」を選ぶと電話相談センターにつながります(8時30分〜17時)。チャットボットは24時間使えます[11]。
申告はいつまで?忘れたらどうする?
- 還付申告だけの人 — 確定申告の義務がなく、医療費控除で税金を戻してもらうための申告(還付申告)は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます[2]。2026年分なら、2027年1月1日から提出できます
- もともと確定申告が必要な人 — 前の職場の源泉徴収票を出せず年末調整を受けていない人などで、ほかに確定申告が必要な理由がある場合は、法定申告期限(原則として翌年3月15日)までに、医療費控除も含めて申告します
- 出し忘れた・間違えた — 還付申告で控除を少なく申告していた場合は、更正の請求で直せることがあります。期間は原則として申告書を出した日から5年以内です[2]
転職の年は、退職・入職の手続きに追われて領収書の保管が後回しになりがちです。年の途中で保険証(資格確認書)を返すときに、それまでの領収書もまとめておくと、翌年の申告が楽になります。退職から入職までの健康保険の切り替えは空白期間の健康保険、退職後の手続き全体は退職後の手続き一覧にまとめています。
次の職場は条件を確かめて選ぶ
転職先の健康保険が協会けんぽか健康保険組合かで、医療費通知の届き方や独自の給付が変わることがあります。採用直行便の条件から探すでは、地域の病院・クリニックの公式採用ページを一覧で見られます。加入する健康保険や福利厚生は、各医療機関の採用ページや面接で直接確かめてください。
参考資料(確認日 2026年10月24日)
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 国税庁「No.2030 還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 国税庁「給与所得者(年末調整済)の記載例 給与所得について年末調整を受けた方が、医療費控除及び寄附金控除を受ける場合」 PDF
- 国税庁「医療費を支払ったとき」(暮らしの税情報) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/04_1.htm
- 国税庁「No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
- 厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
- 船橋市「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」 https://www.city.funabashi.lg.jp/kurashi/zei/007/003/p049464.html
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「医療費のお知らせ」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/public_relations/008/index.html
- マイナポータル よくあるご質問「医療費通知情報の更新日について教えてください。」 ページ
- 国税庁「医療費控除を受ける方へ」(確定申告特集)/「マイナポータルと連携した所得税確定申告手続」 ページ/ページ
- 国税庁「税についての相談窓口」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shirabekata/9200.htm
よくある質問
転職した年でも医療費控除は受けられますか?
受けられます。医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費をもとに計算するもので、勤め先が変わったかどうかは関係ありません。前の職場の健康保険、空白期間の国民健康保険、転職先の健康保険のどの期間に払った医療費も合わせて計算します。
医療費控除は転職先の年末調整で受けられますか?
受けられません。年末調整を受けた人でも、医療費控除は確定申告(還付申告)をして受けます。国税庁は、年末調整を受けた給与所得者が医療費控除を受ける場合の確定申告書の記載例を示しています。
源泉徴収票が2枚あるときはどうしますか?
前の職場の源泉徴収票を転職先に出して年末調整で合算してもらった場合は、転職先の源泉徴収票に両方の給与が入っています。合算されていない場合は、確定申告で2枚分の給与をどちらも記入します。どちらに当たるかは、転職先の源泉徴収票の摘要欄などで確かめ、分からなければ転職先の担当者か税務署の電話相談センターに確認します。
医療費控除とセルフメディケーション税制は両方使えますか?
両方は使えません。どちらか一方を選びます。いったん選ぶと、あとから更正の請求や修正申告で選び直すことはできません。
医療費控除の申告を忘れていました。あとからでもできますか?
確定申告の義務がない人の還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。2026年分なら、2027年1月1日から5年間です。
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