退職金の税金の計算方法|転職で受け取るときの申告書・住民税・確定申告
退職金の税金はどう決まる?

退職金(法律上は「退職手当等」)による所得は「退職所得」として、給与など他の所得と分けて税額を計算します(分離課税)。長く働いた人ほど差し引ける額(退職所得控除額)が大きくなり、残りの半分だけに税金がかかる仕組みです[1][8]。
流れは次の3段階です。
- 退職所得控除額を出す(勤続年数で決まる)
- 退職所得の金額を出す(退職金 − 控除額)× 1/2。千円未満は切り捨て
- 税率をかける(所得税は速算表、住民税は一律10%)
勤務先が「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っていれば、この計算は勤務先が行い、税金を差し引いて退職金を支払います[2]。
退職金の税金の計算方法は?
① 退職所得控除額
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たないときは80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
- 1年未満の端数は切り上げ — 勤続10年2か月なら11年として、控除額は440万円です[1]
- 勤続年数の数え方 — 原則として、その退職金を支払う勤務先で退職の日まで働いた期間です。退職金の計算に前の勤務先の期間を含めている場合は、その期間も加えます(所得税法施行令第69条)[9]
- 障害者になったことが直接の原因で退職した場合 — 控除額に100万円を加えます[1]
② 所得税の税率(速算表)
退職所得の金額に、次の速算表を当てはめます。さらに復興特別所得税として、算出した所得税額に102.1%をかけた額が差し引かれます[2][3]。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
国税庁によると、令和8年度税制改正で防衛特別所得税が創設され、令和9年(2027年)以後に適用されます。ただし復興特別所得税と合わせた合計の税率は変わらず、源泉徴収税額の計算方法も変わりません[1]。
勤続5年以下だと計算は変わる?
勤続年数が5年以下の人の退職金(短期退職手当等)は、退職金から控除額を引いた残りが300万円を超える部分には「2分の1」が使えません(所得税法第30条)[8]。
- 残りが300万円以下 — 一般の場合と同じく(退職金 − 控除額)× 1/2
- 残りが300万円を超える — 150万円 + {退職金 −(300万円 + 控除額)}
法人の役員、国家・地方公務員などの「役員等」として勤めた期間が5年以下の人が、その期間に対応して受け取る退職金(特定役員退職手当等)は、2分の1の計算そのものがありません[1][5]。公立病院などに公務員として勤めていた人は当てはまることがあるため、気になる場合は勤務先や税務署に確認してください。
計算の見本:税金はいくらになる?
以下は国税庁の計算式に当てはめた計算の見本です。金額は計算のための仮の数字で、退職金の相場ではありません。申告書を出していて、ほかに退職金がない場合です。
| 見本A | 見本B | |
|---|---|---|
| 勤続期間 | 7年3か月(→8年) | 12年 |
| 退職金 | 250万円 | 600万円 |
| 退職所得控除額 | 40万円×8年=320万円 | 40万円×12年=480万円 |
| 退職所得の金額 | 控除額以下のため0円 | (600万−480万)×1/2=60万円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 0円 | 60万円×5%=3万円 → ×102.1%=3万630円 |
| 住民税 | 0円 | 60万円×10%=6万円(市町村民税3万6,000円・道府県民税2万4,000円) |
同じ見本で申告書を出さなかった場合、見本Aでは51万500円(250万円×20.42%)、見本Bでは122万5,200円(600万円×20.42%)が所得税として差し引かれ、確定申告で精算することになります。
「退職所得の受給に関する申告書」を出さないとどうなる?

退職所得の受給に関する申告書は、退職金を受け取る人が、受け取る時までに退職金の支払者(勤務先)に出す書類です。税務署に自分で持っていく必要はありません(所得税法第203条)[6][8]。住民税用の「退職所得申告書」と1枚になった様式で、国税庁のサイトにも様式があります[6][10]。
| 出した場合 | 出さなかった場合 | |
|---|---|---|
| 所得税の差し引き | 勤務先が控除額・2分の1を反映して計算 | 支払金額の20.42%(所得税法第201条第3項の20%+復興特別所得税) |
| 確定申告 | 原則不要 | 自分で確定申告をして精算 |
| 住民税 | どちらの場合も、その退職金について通常の計算方法(控除額・2分の1)で差し引かれる(地方税法第328条の6) | |
出さないと、控除額が考慮されないまま差し引かれるため、多くの場合は本来の税額より多く引かれます。引かれすぎた分は、確定申告(還付申告)をすれば戻ります。還付申告は、退職金を受け取った年の翌年1月1日から5年間できます[1][7]。勤務先から案内がない場合は、退職の手続きのときに自分から確認しておくと安心です。
退職金の住民税はどうなる?
住民税は、ふつうは前の年の所得に対して翌年かかりますが、退職金は例外で、受け取ったときに退職金から差し引かれます(特別徴収)[10][12]。
- 税率 — 退職所得の金額に、市町村民税6%と道府県民税4%(東京23区は区民税6%・都民税4%)。基礎控除や扶養控除などの所得控除は差し引きません[10][11]
- どこに納める? — 退職金を受け取る日の属する年の1月1日に住んでいた市区町村です。年の途中で引っ越していても変わりません[10]
- かからない人 — 退職金が退職所得控除額以下の人、その年の1月1日に国内に住所がなかった人などです[11][12]
なお、給与から差し引かれていた前年分の住民税の残りが、退職のときに最後の給与や退職金からまとめて差し引かれることもあります。これは退職金にかかる住民税とは別のものです。退職の時期による違いは退職後の手続き一覧にまとめています。
確定申告が必要になるのはどんなとき?
- 申告書を出さず、20.42%が差し引かれた — 確定申告で精算します。多く引かれていれば還付されます[1]
- 申告書を出したが、医療費控除などで確定申告をする — 国税庁は、医療費控除や寄附金控除の適用を受けるなどで確定申告書を出す場合は、退職所得の金額も記載する必要があるとしています[1]
- 同じ年に2か所から受け取り、精算が済んでいない — 下の項目を参照してください。差し引かれすぎた分の還付は、本人の確定申告で受けます[4]
退職金を受け取ったあと、勤務先は退職の日以後1か月以内に「退職所得の源泉徴収票」を交付することになっています(所得税法第226条第2項)[8]。確定申告に使うので、なくさないように保管してください。
同じ年に2か所から退職金を受け取ったら?
転職が続いて、同じ年に2か所から退職金を受け取ることがあります。このとき退職所得控除は2回分使えるわけではなく、2つの退職金を合計して1回分の控除で計算します[4]。
- 2か所目に出す申告書 — 先に受け取った退職金の支払者・金額・源泉徴収税額などを書き、その「退職所得の源泉徴収票」を添付します[4][6]
- 勤続年数 — 最も長い勤続期間に、それと重ならない期間を加えて計算します(1年未満は切り上げ)[4][9]
- 税額 — 合計額で計算した税額から、1か所目で差し引かれた額を引いた分が、2か所目で差し引かれます[4]
また、前の年以前に退職金を受け取ったことがあり、勤続期間が重なる場合は、控除額が調整されることがあります。前年以前4年内に受け取った退職金が対象になるのが基本で、確定拠出年金の一時金が関わると9年内・19年内になる場合もあります[4]。自分が当てはまるか分からないときは、税務署か税理士に相談してください。
退職金制度は病院・クリニックで違う?

退職金(退職手当)の制度を設けるかどうかは、医療機関ごとに決められます。労働基準法は、退職手当の定めをする場合に、対象となる職員の範囲・計算方法・支払の時期などを就業規則に書くよう定めています(第89条第3号の2)[13]。制度がない医療機関もあり、ある場合も「何年以上勤めると出るか」「どう計算するか」は規程によって違います。
- 採用ページを確認 — 福利厚生や待遇の欄に退職金制度の記載があるかを見ます
- 面接で確認 — 記載がなければ、制度の有無、支給の対象になる勤続年数、前の職場の期間を通算するかを質問します。聞き方は面接の逆質問の記事も参考になります
- 内定後に確認 — 退職手当の定めがある場合、労働契約を結ぶときに明示する事項に含まれます(労働基準法施行規則第5条)[14]。労働条件通知書の確認事項もあわせて見てください
採用直行便では、病院・クリニックの公式採用ページを市区町村ごとに一覧にしています。医療機関名で探すか地図で探すから気になる医療機関の採用ページを開き、退職金制度を含む条件を直接確かめてから応募してください。
退職金の使い道や家計を相談したいときは?
退職金を受け取ったあとは、次の職場までの生活費、引っ越し費用、貯蓄や資産運用など、使い道を決める場面が出てきます。転職で収入や社会保険が変わるときは、家計全体を見直す機会にもなります。税金の個別の判断は税務署や税理士に、お金の使い道や家計の見直しはファイナンシャルプランナー(FP)に相談する方法があります。
参考資料(確認日 2026年10月23日)
- 国税庁「No.1420 退職手当等を受けたとき(退職所得)」(令和8年4月1日現在法令等) ページ
- 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」 ページ
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」 ページ
- 国税庁「No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」 ページ
- 国税庁「No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」 ページ
- 国税庁「[手続名]退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」 ページ
- 国税庁「No.2030 還付申告」 ページ
- 所得税法(e-Gov法令検索) 第30条・第201条・第203条・第226条 法律
- 所得税法施行令(e-Gov法令検索) 第69条 政令
- 地方税法(e-Gov法令検索) 第50条の2〜第50条の7・第328条〜第328条の7 法律
- 江東区「退職所得に対する住民税(特別区民税・都民税)」 ページ
- 浜松市「退職所得に対する市民税・県民税」 ページ
- 労働基準法(e-Gov法令検索) 第89条 法律
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索) 第5条 省令
この記事は2026年10月23日時点で施行されている制度にもとづく一般的な説明です。個別の税額や手続きは、税務署・税理士、または住所地の市区町村にご確認ください。
よくある質問
退職金が退職所得控除額より少なければ、税金はかかりませんか?
退職金から退職所得控除額を差し引くと残りがないため、所得税も住民税もかかりません(自治体の案内でも、収入金額が退職所得控除額以下の人には住民税が課されないとされています)。ただし「退職所得の受給に関する申告書」を出していないと、所得税は支払金額の20.42%が差し引かれます。その場合は確定申告で精算します。
勤続年数が1年未満でも退職所得控除はありますか?
あります。勤続年数の1年未満の端数は1年に切り上げ、退職所得控除額は「40万円×勤続年数」ですが、80万円に満たないときは80万円になります。勤続1年未満でも控除額は80万円です(国税庁 No.1420)。
前の職場の勤続年数は、次の職場の退職金の勤続年数に含まれますか?
原則は、その退職金を支払う勤務先で働いた期間で数えます。ただし、退職金の額を計算するときに、前の勤務先で働いた期間も含めて計算する場合は、その期間も勤続年数に加えます(所得税法施行令第69条)。通算するかどうかは、勤務先の退職金規程によります。
申告書を出したかどうか分からないときは?
退職後に勤務先から受け取る「退職所得の源泉徴収票」で、支払金額と源泉徴収税額を確かめます。源泉徴収税額が支払金額の20.42%に当たる額なら、申告書が出ていない扱いになっている可能性があります。勤務先に確認し、必要なら確定申告で精算してください。
退職金から住民税がまとめて引かれていました。
2つの場合があります。1つは退職金そのものにかかる住民税(分離課税)で、支払のときに差し引かれます。もう1つは、給与から差し引かれていた前年分の住民税の残りを、退職金などからまとめて差し引く一括徴収です。どちらか分からないときは、勤務先に内訳を確認してください。
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