看護師の奨学金を返済前に転職できる?お礼奉公と労働基準法16条・修学資金の返還免除

公開 2026年10月29日・最終更新 2026年10月29日

結論:奨学金(修学資金)が残っていても、退職すること自体は別に考えます。問題になるのは、借りたお金の返還の約束です。労働基準法は、辞めたら違約金を払うといった賠償予定を禁じています(第16条)が、明確な貸し借りの契約で、働けば返済が免除される形のものは別に扱われることがあり、どちらに当たるかは契約の中身次第です。転職を決める前に、①契約書・就業規則、②残額と返し方、③給与からの差し引きの根拠を確認し、迷ったら労働基準監督署・弁護士・都道府県の修学資金の窓口に相談してください。

この記事は制度と公的な解説を整理したもので、個別の契約が有効かどうかを判断するものではありません。

病院の奨学金(修学資金)と「お礼奉公」とは?

看護学生の教科書と書類

看護師の奨学金には、出し手によっていくつかの種類があります。転職のときに確認する相手と書類が違うので、まず自分の奨学金がどれに当たるかを確かめます。

種類出し手返還が免除される条件の例確認先
病院・法人の奨学金病院・医療法人など卒業後、その病院で一定期間働く(契約書による)貸与契約書、勤務先
看護師等修学資金都道府県都道府県内の指定施設などで一定期間、看護業務に従事する貸与を受けた都道府県の担当窓口
その他の奨学金日本学生支援機構、自治体、団体など制度による各実施団体

「お礼奉公」は、病院から学費などの援助を受け、卒業後に一定期間その病院で働けば返さなくてよい、という仕組みを指す通称です。法律上の用語ではありません。期間の途中で辞めると、残りを返す約束になっていることが多く、転職の時期を考えるときに気になる点になります。

奨学金を返す前に転職できる?

退職できるかどうかと、お金を返す約束が残るかどうかは、分けて考えます。

  • 退職 — 期間の定めのない雇用(正職員など)なら、退職の申し入れから2週間で雇用は終わります(民法第627条)。伝え方や時期は看護師の退職の伝え方で説明しています
  • 返還 — 借りたお金を返すかどうか、いくら・どう返すかは、奨学金の契約書の内容によります。退職したことで返還の条件に当たる場合、一括か分割かも契約で決まっていることが多いので、退職を伝える前に確認します

なお、労働基準法は、使用者が前借金などと賃金を相殺することを禁じています(第17条)[1]。「奨学金を返し終わるまで辞めさせない」といった扱いを受けたときは、一人で抱えずに次の節の窓口に相談してください。

労働基準法第16条(賠償予定の禁止)は何を禁じている?

労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています[1]。

  • 厚生労働省の解説 — 違約金を定めたり損害賠償額を予定したりする契約を結ぶことは禁止され、違反した契約は無効。使用者は、実際に損害を受けた場合に、その事実を証明して損害賠償を請求できるにすぎない、としています[2]
  • 研修費用などの返還 — 長野労働局の労働条件整備ハンドブックは、研修費用や資格取得費用を、一定期間勤務しなかった場合に返還させる契約は、損害賠償予定の契約として第16条の違反となる可能性があると説明しています。ただし、明確な貸借契約があり、一定の条件の下で返済を免除するものは除くとしています[3]

つまり、同じ「辞めたら返す」という約束でも、実質が「辞めたことへの罰金」に近いのか、「お金の貸し借りで、働けば返済が免除される」ものなのかで、見方が変わります。どちらに当たるかは、契約書の書き方だけでなく、援助の目的、金額、返し方、働いた期間に応じた減額の有無などの中身で判断されます。当てはめは個別の判断になるため、相談先で契約書を見てもらってください。

契約書で確認しておくことは?

契約書を読む手元

転職を考え始めたら、退職を伝える前に次の点を手元の書類で確かめておくと、相談するときも話が早く進みます。

  • 契約の形 — 「貸与」「金銭消費貸借」などお金を貸す契約か。借りた金額、利息の有無、返還の方法と期間が書かれているか
  • 免除の条件 — 何年働けば免除されるか。働いた期間に応じて返す額が減るか(按分)、途中で辞めると全額か
  • 返し方 — 一括か分割か。返し始める時期
  • 給与からの差し引き — 給与から差し引く定めや、差し引きに同意した書面があるか。賃金は全額を支払うのが原則で、差し引けるのは法令に定めがある場合か労使協定がある場合です(労働基準法第24条)[1]
  • 就業規則 — 退職の申し出の時期、奨学金の規程。契約書と就業規則の写しは、退職前に手元にそろえておきます
  • 残額 — いつの時点で、いくら残っているか。勤務先に書面で確認できると安心です

自治体の看護師等修学資金の返還免除の条件は?

都道府県が貸す「看護師等修学資金」は、病院の奨学金とは別の制度で、返還免除の条件は都道府県が定めます。国の要綱(厚生省の通知)では、次のように定めています[4]。

  • 当然免除 — 養成施設を卒業して1年以内に免許を取り、指定された施設で引き続き5年間看護職員として業務に従事したとき(進学や疾病などやむを得ない事由の期間は除く)
  • 返還の事由 — 卒業後1年以内に免許を取らなかったとき、免許を取った後すぐに指定施設で業務に従事しなかったとき、免除を受ける前に指定施設での業務をやめたときなど
  • 返還の方法 — 月賦または最長半年賦の均等払いが基本。指定施設で業務に従事している間などは、都道府県知事の判断で返還を猶予できる定めもあります

実際の条件は都道府県ごとに違い、同じ都道府県でも貸与を始めた年度で制度が違うことがあります。例えば東京都では、令和4年度以降に貸与を始めた人について、卒業後の最初の就職先で原則判断すること、指定施設(200床未満の病院、病床の80%以上が精神科病床の病院、診療所、介護老人保健施設、訪問看護ステーションなど)と都内施設の間の転職は都内施設での従事として扱うこと、従事期間と貸与月額によって免除額が変わることなどを定めています[5][6]。

転職すると従事期間の数え方や免除額が変わることがあるため、応募する前に、転職先が対象の施設に当たるかを貸与を受けた都道府県の担当窓口に確認してください。勤務先の変更の届出が必要な場合もあります。

迷ったときの相談先は?

  • 総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署) — 労働問題全般の相談を、無料・予約不要で受け付けています。法違反のおそれがあれば労働基準監督署につなぎます[7]
  • 弁護士 — 契約が有効か、返還の額が妥当かなど、個別の判断が必要なとき。費用の面で迷う場合は、法テラス(日本司法支援センター)のサポートダイヤル(0570-078374)で、法制度や相談窓口の案内を受けられます[8]
  • 都道府県の修学資金の担当窓口 — 看護師等修学資金を借りている場合の免除・猶予・届出

相談には、奨学金の契約書、就業規則、給与明細、勤務先とのやり取りの記録を持っていくと、状況を伝えやすくなります。

返還することになったら、家計はどうする?

返還が必要になった場合、一括か分割か、次の職場の収入とあわせて毎月いくら返せるかを考えておくと、転職の時期を決めやすくなります。返還の約束そのものは勤務先や相談先と確認し、家計全体の見直しはファイナンシャルプランナー(FP)に相談する方法もあります。

次の職場を探すなら

都道府県の修学資金を借りている人は、転職先が免除の対象施設に当たるかで条件が変わります。採用直行便では、病院・クリニックの公式採用ページを市区町村ごとに一覧で見られ、病床の有無でも絞り込めます。看護師向けの一覧から候補を探し、勤務の条件は各医療機関の採用ページで、修学資金の扱いは都道府県の窓口で確かめてください。直接応募の進め方は看護師の直接応募ガイドにまとめています。

参考資料(確認日 2026年10月24日)

  1. 労働基準法 第16条・第17条・第24条(e-Gov法令検索) 法律/民法 第627条 法律
  2. 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A(違約金の定め・賠償予定の禁止) ページ
  3. 長野労働局「労働条件整備ハンドブック 一般労働条件確保・改善のポイント」2 労働契約(4)損害賠償予定や違約金の禁止 PDF
  4. 厚生労働省 法令等データベース「看護師等修学資金の貸与について」(昭和37年6月19日 発医第177号、別紙 看護師等修学資金貸与事業実施要綱) 通知
  5. 東京都保健医療局「看護師等修学資金貸与事業」 ページ
  6. 東京都保健医療局「看護師等修学資金貸与事業(令和4年度以降令和6年度以前に貸与を開始された方)」 ページ/同「東京都看護師等修学資金について」(指定施設の定義) PDF
  7. 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」 ページ
  8. 法テラス(日本司法支援センター) ページ

よくある質問

お礼奉公とは何ですか?

病院などから看護学校の学費や生活費の援助(奨学金・修学資金)を受け、卒業後に一定期間その病院で働くと返還が免除される、という仕組みを指す通称です。法律上の用語ではありません。期間の途中で退職すると、残りを返す約束になっていることが多いため、転職のときに問題になります。

奨学金を返し終わる前に転職できますか?

退職すること自体は、奨学金の有無と別に考えます。期間の定めのない雇用なら、退職の申し入れから2週間で雇用は終わると民法に定められています。一方で、借りたお金を返す約束(返還)が残るかどうかは、契約書の内容によります。退職の前に契約書を確認し、迷うときは労働基準監督署や弁護士に相談してください。

途中で辞めたら全額返すという約束は違法ですか?

一概には言えません。労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額を予定する契約を禁じています。長野労働局の解説では、研修費用などを一定期間勤務しなかった場合に返させる契約は16条違反となる可能性があるとしつつ、明確な貸借契約があり、一定の条件で返済を免除するものは除くとしています。個別の契約がどちらに当たるかは、契約の中身で判断されます。

最後の給与から奨学金の残りを差し引くと言われました。

賃金は全額を支払うのが原則で、給与から差し引けるのは、法令に定めがある場合か、労働者の過半数代表などとの書面の協定(労使協定)がある場合です(労働基準法第24条)。また、前借金などと賃金を相殺することは禁じられています(同法第17条)。差し引きの根拠を勤務先に確認し、納得できないときは労働基準監督署に相談してください。

都道府県の看護師等修学資金を借りています。転職すると返還になりますか?

都道府県の制度ごとに条件が違います。国の要綱では、指定された施設で引き続き5年間看護業務に従事すると返還が免除され、指定施設での業務をやめると返還の事由になります。東京都の例では、指定施設と都内施設の間の転職は都内施設での従事として扱うなどの定めがあります。転職先が対象の施設に当たるかを、貸与を受けた都道府県の担当窓口に必ず確認してください。

次の職場は、公式採用ページから直接応募

採用直行便は、全国の病院・クリニックが自ら公開している公式採用ページを、市区町村・診療科・最寄り駅から探せる無料のサイトです。会員登録は要りません。紹介会社を通さずに応募すると、採用する医療機関に紹介手数料の負担がかかりません。

看護師向け:都道府県から探す 地図・駅から探す 直接応募の進め方

この記事は一般的な情報提供です。制度・料金・サービス内容は変わることがあります。手続きや申し込みの前に、必ず各機関・各社の公式情報をご確認ください。

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