医師の非常勤は雇用か業務委託か|違いと労働時間・社会保険・税金・労災の確認点

公開 2026年10月25日・最終更新 2026年10月25日

結論:非常勤医師の契約が雇用か業務委託かで、労働時間の規制、健康保険・厚生年金、雇用保険、労災保険、税金(源泉徴収・確定申告)の扱いが変わります。どちらに当たるかは契約書の名称だけでなく働き方の実態で判断されるため、この記事は公式に確認できた一般的な仕組みの説明にとどめます。最終的には契約書の内容を確かめ、社会保険労務士・税理士などの専門家に相談してください。

雇用と業務委託は何で決まる?

契約書と万年筆

労働基準法は、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています(第9条)[1]。厚生労働省が判断の参考にしている昭和60年の労働基準法研究会報告では、労働者に当たるかどうかを、雇用契約・請負契約といった形式にかかわらず、実態から総合的に判断するとしています[2]。主な判断要素は次のとおりです。

  • 仕事の依頼を断る自由があるか — 具体的な依頼や業務の指示を断れない場合は、指揮監督関係を推認させる要素になります
  • 業務の進め方に指揮監督を受けるか — 業務の内容や進め方について具体的な指揮命令を受けているか
  • 勤務場所・時間の拘束があるか — ただし、業務の性質上どうしても場所・時間が決まる場合は区別して考えます
  • 代わりの人が働けるか — 本人に代わって他の人が働くことが認められていれば、指揮監督関係を否定する要素のひとつになります
  • 報酬が働いた時間などへの対価か — 報酬の性格も判断の要素です

税金の面でも、国税庁は、雇用契約またはこれに準ずる契約に基づく対価は給与所得、請負契約またはこれに準ずる契約に基づく対価は事業所得に当たるという考え方を示しています(大工・左官などの報酬を例に説明した資料)[3]。医師の非常勤が具体的にどちらに当たるかは、勤務の実態によって変わります。この記事では判断しません。

労働時間の規制はどう変わる?

  • 雇用の場合 — 労働基準法の労働時間の決まりが適用されます。事業場が異なっても労働時間は通算します(第38条)[1]。診療に従事する勤務医には2024年度から時間外・休日労働の上限規制が適用され、A水準では年960時間・月100時間未満(例外的に月100時間未満の上限が適用されない場合あり)で、副業・兼業先の労働時間も通算して判断されます[4]
  • 業務委託の場合 — 労働者に当たらなければ、労働基準法の労働時間の規制は適用されません。厚生労働省の求職者向けの案内でも、フリーランス契約の場合は雇用労働者に対する法律の保護の対象外になると注意が書かれています[5]

業務委託でも、従業員を使用しない個人(フリーランス)に業務を委託する事業者には、フリーランス・事業者間取引適正化等法の義務があります。業務の内容・報酬の額・支払期日などを書面または電子メールなどで明示することのほか、従業員を使用する発注事業者には、報酬の支払期日を給付を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間内で定めて支払うことなどが求められます。6か月以上の委託では、契約を途中で解除したり更新しなかったりするときに、少なくとも30日前までに予告する義務もあります[6]。

健康保険・厚生年金はどうなる?

日本年金機構は、厚生年金保険の適用事業所に常用的に使用される70歳未満の人は被保険者になると説明しています。ここでいう「使用される」は、雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受ける使用関係をいうとされています[7]。

  • 通常の労働者の4分の3以上働く場合 — 1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務をする通常の労働者の4分の3以上なら被保険者になります[7]
  • 4分の3未満の短時間労働者 — 特定適用事業所などで働き、週の所定労働時間が20時間以上、学生でないなどの要件を満たすと被保険者になります。特定適用事業所は、現在は厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で、令和9年10月から36人以上、令和11年10月から21人以上、令和14年10月から11人以上に広がる予定です[8]
  • 2か所以上で加入要件を満たす場合 — 本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事実発生から10日以内に提出します。標準報酬月額は各事業所の報酬を合算して決まり、保険料は各事業所の報酬額で按分されます[9]

業務委託で使用関係がなければ、その勤務先で被保険者になることはありません。ただし使用関係があるかどうかは実態で判断されるため、迷う場合は年金事務所か社会保険労務士に確認してください。

雇用保険はどうなる?

雇用保険の適用事業所に雇用される人で、1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある人は、原則として被保険者になります。複数の会社で要件を満たす場合は、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける会社でのみ加入します[10]。なお、週の所定労働時間の要件は、令和10年10月1日から10時間以上に変わる予定です[11]。雇用されていない業務委託の場合は、雇用保険の対象になりません。雇用に当たるかどうか迷う場合は、ハローワークか社会保険労務士に確認してください。

労災保険はどうなる?

  • 雇用の場合 — 労働者災害補償保険法では、労働者を使用する事業を適用事業としています(第3条)[12]。非常勤でも、雇用されていれば勤務先の労災保険の対象です
  • 業務委託の場合 — 労働者ではないため原則として対象外ですが、2024年11月1日から、企業等から業務委託を受けるフリーランスは、業種・職種を問わず労災保険に特別加入できるようになりました。都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体に申し込み、団体が手続きを行います[13]

税金(源泉徴収・確定申告)はどうなる?

電卓と書類と領収書
  • 雇用の場合 — 給与所得に当たる場合、給与を支払う側が支払いのときに所得税を源泉徴収します[3]。給与を2か所以上から受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と各種の所得金額(給与所得・退職所得を除く)との合計額が20万円を超える人は、確定申告が必要です(例外あり)[14]
  • 業務委託の場合 — 個人に支払う報酬のうち源泉徴収が必要なのは、所得税法で定められた種類の報酬・料金です(原稿料・講演料、弁護士など特定の資格を持つ人への報酬など)[15]。業務委託の報酬が源泉徴収の対象か、自分の所得がどの所得区分になり、どう申告するかは、契約の内容によって変わるため税理士に確認してください

契約の前に確かめたいことは?

書類を読みながらメモ
  1. 契約書の種類 — 雇用契約(労働条件通知書)か、業務委託契約か
  2. 勤務の実態 — 勤務日時は誰が決めるか、依頼を断れるか、代わりの医師を立てられるか
  3. 書面の内容 — 雇用なら、契約期間・就業の場所と業務・始業と終業の時刻・休日・賃金・退職に関する事項など(労働基準法第15条、同法施行規則第5条)[1][16]。業務委託なら、業務の内容・報酬の額・支払期日など
  4. 保険の扱い — 健康保険・厚生年金・雇用保険に加入するか、労災保険の扱い、医師賠償責任保険の加入状況
  5. ほかの勤務先との関係 — 他の医療機関でも働いている場合の労働時間の申告方法、社会保険の届出

この記事に書いたのは、公式の案内で確認できた一般的な仕組みです。自分の契約がどちらに当たるか、保険や税金がどうなるかは、最終的には契約書の内容と専門家(社会保険労務士・税理士)で確認してください。勤務先の探し方と連絡の進め方は医師の直接応募ガイドにまとめています。

参考資料(確認日 2026年10月22日)

  1. 労働基準法 第9条・第15条・第38条(e-Gov法令検索) 法律
  2. 厚生労働省「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)昭和60年12月19日」 PDF
  3. 国税庁「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いに関する留意点について(情報)」別冊 問1 PDF
  4. 厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」 ページ
  5. 厚生労働省「民間人材サービス事業者を利用する求職者の皆さまへ」 PDF
  6. 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」 ページ
  7. 日本年金機構「適用事業所と被保険者」 ページ
  8. 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」 ページ
  9. 日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」 ページ
  10. 厚生労働省「雇用保険制度 Q&A~事業主の皆様へ」 ページ
  11. 厚生労働省「令和6年雇用保険制度改正(令和10年10月1日施行分)について」 PDF
  12. 労働者災害補償保険法 第3条(e-Gov法令検索) 法律
  13. 厚生労働省「令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました」 ページ
  14. 国税庁 タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」 ページ
  15. 国税庁 タックスアンサー No.2792「源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」 ページ
  16. 労働基準法施行規則 第5条(e-Gov法令検索) 施行規則

よくある質問

契約書に「業務委託」と書いてあれば、業務委託として扱われますか?

契約書の名称だけでは決まりません。厚生労働省が参考にしている判断基準(昭和60年の労働基準法研究会報告)では、雇用契約・請負契約といった形式にかかわらず、仕事の依頼を断る自由があるか、業務の進め方に指揮監督を受けるか、勤務場所・時間の拘束があるかなどの実態から総合的に判断するとされています。

非常勤で複数の病院に雇用されていると、労働時間はどう数えますか?

労働基準法では、事業場が異なっても労働時間は通算します(第38条)。診療に従事する医師の時間外・休日労働の上限(A水準で年960時間・月100時間未満、例外あり)も、副業・兼業先の労働時間を通算して判断されます。

業務委託で働いている医師も労災保険に入れますか?

業務委託で働く人は原則として労災保険の対象外ですが、2024年11月1日から、企業等から業務委託を受けるフリーランスは業種・職種を問わず労災保険に特別加入できるようになりました。都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体を通じて申し込みます。

2か所以上から給与を受けていると、確定申告が必要ですか?

国税庁の案内では、給与を2か所以上から受けていて、年末調整をされなかった給与の収入金額と各種の所得金額(給与所得・退職所得を除く)との合計額が20万円を超える人は、確定申告が必要とされています(例外あり)。自分が当てはまるかは、国税庁の案内か税理士で確認してください。

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